医師

医師は治療や予防を通して、私たちの健康と豊かな暮らしを支えてくれる存在です。一般的には、病院で診察や治療に当たる人を「医師」と呼びますが、大学や研究機関で病気のメカニズムや新たな治療法を研究する「研究医(病理医)」という役割もあります。病気や怪我で苦しむ人を助ける医師の姿はフィクション作品の題材にされることも多く、ドラマやマンガをきっかけに医師に憧れる人も少なくないでしょう。

人生100年時代、人々の健康意識が高まるとともに、医師の重要性もますます高まりつつあります。

医師の仕事

医師の仕事は、病気や怪我の原因を解明し、治療や予防に従事することです。医師は、患者さんに治療を行なう「臨床医」と、病気の原因を調べたり、さまざまな治療法を究明していく「研究医(病理医)」の2種に大別できます。

●臨床医

臨床医は内科や産婦人科など、それぞれが専門とする診療科に属して、病気の治療や予防を行なうケースが一般的です。ただし、勤務先によっては複数の診療科目に対応する場合もあります。目の前の患者さんの命を預かる仕事なので、冷静な判断力や忍耐力が求められます。また、患者さんとの対話を通して診断や治療法の提案を行なうことも多く、コミュニケーション能力や傾聴力など総合的な能力が必要となるでしょう。

●研究医(病理医)

研究医(病理医)には、基礎研究医と臨床研究医の2種類があります。基礎研究医とは、大学や研究機関に所属して、人体や病気に関わる研究を行なう医師のことです。病気のメカニズムを解明したり、治療法を究明したりすることで、医学の新たな扉を開きます。

一方、臨床研究医とは、診療と研究を両方行なう医師のことです。おもに診療現場に立ちながら臨床実験を行ない、新しい技術の確立や実用化を目指します。臨床研究医になるためには、2021年度に新設された「臨床研究医コース」に応募し、合格後に責任医療機関で研修を受ける必要があります。

どのようなキャリアを選ぶかによって、勤務先も異なります。臨床医の場合は、大学病院や地域の診療所など、いわゆる「病院」がおもな勤務先です。専門性を磨きたい場合は、消化器内科や整形外科といった専門領域に特化したクリニックに勤務するケースが多いとされています。大学病院や大規模な総合病院は指導医の層が厚く、経験を積みたい若い医師や、認定資格を取得したい医師が勤務する場合が多いようです。

一方、研究医(病理医)は大学や附属病院、官公庁や民間の研究機関に所属する場合が一般的です。その他、健診機関や介護施設など、医師の勤務先は多岐にわたります。また、開業医を目指す医師も少なくありません。

医師になるには?

医師になるためには、医学部医学科を卒業し、医師国家試験に合格する必要があります。

しかし、医師国家試験に合格しても、すぐに医師として働けるわけではありません。医師免許を取得後は、まず2年間の初期研修が行なわれます。いわゆる「研修医」と呼ばれる期間で、2年間かけてさまざまな科を回ることで、医師としての基礎を身につけます。1年目のはじめの半年間は、内科で学ぶケースが一般的です。その後、外科と救急・麻酔科を各3ヵ月かけて回り、診療の基礎を習得します。2年目は産婦人科や精神科といった複数科を1ヵ月ごとにローテーションし、最終的に自分自身の専門としたい診療科を選択するのです。

研修医としての期間を終えたあとは、後期研修に入ります。2018年から導入された後期研修は、初期研修よりもさらに高度な知識と技術を習得し、医師がそれぞれの専門性を高めることを目的とした制度です。後期研修の期間に明確な決まりはないものの、基本的には3年間かけて行なわれる場合が多いでしょう。また、初期研修の研修医と区別して、後期研修中の医師を「専攻医」「専修医」と呼ぶこともあります。

約5年間の研修を終えると、晴れて一人前の医師として働けるようになります。その後も専門医や認定医の資格取得を目指したり、研修会やセミナーに参加したりと、医師として活躍するためには日々の自己研鑽が欠かせません。

必要な資格

医師として医療行為を行なうためには、国家資格である「医師免許」を取得する必要があります。医師国家試験は例年2月に実施され、合格率は90%前後です。試験では幅広い医学的知識だけでなく、医師としての倫理観を問われる問題も出題されます。また、医師として絶対に行なってはならない行為などが「禁忌選択肢」として設けられており、それらを4つ以上選択すると、どれだけ点数が高くても不合格になってしまうとされています。

専門的な学校・学科はあるの?

医師国家試験の受験資格を得るためには、大学の医学部医学科の正規課程を修了する必要があります。卒業見込みでも受験は可能ですが、基本的には各学校の卒業試験に合格後、受験資格が与えられます。医学部受験は大学受験における最難関として知られており、合格するには膨大な勉強量が必要です。医師国家試験の合格率が例年90%前後と高い水準を保っているのは、「そもそも医学部に入ること自体が難しく、誰でも受験できるわけではないから」と考えられています。

日本の大学は通常4年間で卒業できるのに対し、医学部医学科をはじめとする医療系学科は6年制となっています。これは、医学に関する知識があまりに膨大なことに加え、4年生の終わり頃から6年生の夏までの約2年間は、病院での臨床実習が入るためです。また、医療現場を早くから体験するために、1年生のときから見学実習や体験実習を行なう大学も少なくありません。

医師の年収・給与・収入

厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、医師の平均年収は1,378.3万円です。男女別の平均年収を比べてみると、男性医師は1,469.9万円、女性医師は1,053.7万円となっています。男性医師のほうが平均年収が高いのは、育児や介護などで時短勤務を選ぶ女性医師が少なくないためと考えられます。

また、年代別の平均年収は以下のとおりです。

男性医師女性医師
20代前半475万円436万円
20代後半752万円639万円
30代前半954万円1,008万円
30代後半1,197万円1,011万円
40代前半1,340万円1,184万円
40代後半1,572万円1,310万円

医師として働くためには医学部に6年間通い、その後2年間は研修医として勤務する必要があります。医師として働けるのは早くても25歳からとなるため、20代前半は収入が比較的低くなりやすい傾向があるのです。なお、医師のなかには勤務先からの指示や、知見を広げるために、複数の病院でアルバイトをする人も少なくありません。上記はあくまで所属する病院から得ている収入の平均値なので、複数の勤務先がある場合は、さらに収入が多くなります。

さらなる年収アップを期待するなら、開業医を目指すのもおすすめです。厚生労働省の「医療経済実態調査」によると、一般診療所の院長の平均年収は約2,763万円と、勤務医の約2倍となっています。しかし、クリニックの開業には物件の購入や医療機器の導入など、多額の設備投資が必要です。また、医師としてだけではなく、経営者としての能力も求められるでしょう。このように開業にはさまざまなリスクがともないますが、収入アップ以外にも「自分の診療スタイルを追求できる」「自分の裁量で仕事ができる」などさまざまなメリットもあります。

医師の社会のニーズ・将来性・まとめ

医師の数は年々増加傾向にあり、2020年末時点での医師数は約34万人と過去最多を記録しました。その一方で、地域による医師数の偏りが問題視されているのも事実です。国としてもこの問題を解決するため、医学部定員に「地域枠」を設けるなど、医学部受験生に地域医療へ従事することを選んでもらえるような取り組みを行なっています。地域医療の現場は「地域に貢献している」という実感を得られやすく、医師として大きなやりがいと喜びを感じられるはずです。

また、本格的な高齢化社会を目前に、老年科専門医の需要も高まりつつあります。健康寿命の延伸や福祉との連携など、老年医学は高齢化が進む日本において、とても重要な領域です。

近年はAI技術の進歩にともない、「病気を診断する仕事はAIにとってかわられるのでは」という心配の声があがっています。これに対し、日本病理学会は「将来病理医がAIを使うことがあっても、AIは病理医にかわるものではない」という声明を発表しました。人間である医師の強みは、目の前の患者さんとコミュニケーションを取りながら、多元的な情報を統合できる点にあります。本格的なAI時代が到来しても人間の医師が不要になることはなく、むしろ医師とAIが協働することで、患者さんにより高精度な医療を提供できるようになるのではないでしょうか。これからの医師には医学的知見や技術だけでなく、AIをはじめとする革新的技術を使いこなす力や、患者さんと信頼関係を築くための人間力が求められていくことでしょう。

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