行政書士

行政書士の仕事

行政書士は、個人や法人から依頼を受け、国や地方公共団体などの官公署に提出する書類・契約書などを作成する職業で、国家資格の取得が必要です。

長寿高齢化により終活として需要が増えてきた「遺言書」の作成支援を行ったり、福祉サービスを利用するための書類作成や提出などをサポートしたりと、人々の暮らしに役立つ仕事を担います。また、自治体では行政手続のオンライン化が推進されているため、電子申請や電子調達などビジネス面での支援も行っています。

行政書士の仕事は、おもに4つに分類できます。

①国や地方公共団体などの官公署に提出する書類の作成・提出

1万種類を超えるといわれている、国や地方公共団体などの官公署に提出する書類の作成・提出を行ないます。

例えば、個人からの依頼としては、自動車を購入したときに手続きが必要な車庫証明や自動車登録申請、畑を駐車場にしたい場合に必要な農地転用の許可申請、日本国籍の取得申請などが挙げられるでしょう。法人に対するサポートとしては、会社設立時の定款作成などの手続きや、建設業・運送業など各種業法に基づく許認可申請、飲食店や宿泊施設などの各種営業許可申請などがあります。

②権利義務に関連する書類(遺言書や遺産分割協議書、各種契約書など)の作成

のちのちトラブルになるおそれがある、土地や建物の賃貸借やお金の貸し借りなどのときに作成する契約書類の作成を行ないます。また、交通事故などが発生し被害者・加害者の間で話し合いが行なわれたあとに作成する、示談書や合意書の作成でも活躍します。

先述した遺言書の作成は、相続対策が身近になってきた昨今、増えてきている案件の一つです。

③事実証明に関する書類(内容証明郵便や財務諸表などの会計書類など)の作成

“いつ、誰から、誰あてに、どのような内容が差し出されたか”を証明できる内容証明郵便の作成にも対応しています。内容証明郵便は、通常の郵便よりも緊迫感や威圧感があるため、クーリングオフを申し出たい場合や支払いを督促したい場合に用いられることが多いものです。

また、中小企業へのサポートとして、損益計算書や貸借対照表などの会計記帳にも対応しています。

④①~③の書類作成に伴う相談やコンサルティング

行政書士が書類を作成するうえで、依頼者から話を聞くなどのやり取りは必要不可欠です。特に依頼者が初めて対応するようなそ場合には、そもそもどのような手続きをすれば良いのか・どんな書類が必要なのかがわからず、相談に来るケースもあるでしょう。

そのようなときに相談に乗ったり、必要に応じてアドバイスをするなどのコンサルティング業務も行政書士の仕事です。

行政書士になるには?

行政書士になるためには、2つの方法があります。

①行政書士試験に合格した人

②弁護士、公認会計士、税理士、弁理士の資格を所有している人、または国家公務員や地方公務員などで行政事務を20年(高校卒業者は17年)以上経験した人

また、行政書士として働く場合には、日本行政書士会連合会に登録しなければなりません。

行政書士試験は、学歴や年齢、国籍などに関係なく誰でも受験が可能です。試験は毎年1回のみで、11月の第2日曜日の午後1時~4時に実施されています。47都道府県すべてに試験会場が用意されていて、受験手数料は10,400円です。

2022年現在、過去10年間における合格率は10%前後となっていますので、合格率の低い難関資格の一つといえるでしょう。ただ、法律系資格の中では挑戦しやすく、法律資格の登竜門といわれています。

必要な資格

行政書士試験を受ける方法であれば、学歴や年齢、国籍などが問われませんので、誰でも受験が可能です。2021年度の試験の受験者は、最年少は11歳、最年長は97歳と幅広い年齢層の方がチャレンジしており、合格者の最年少は14歳、最年長は82歳となっています。

ただし、行政書士として開業するために必要な日本行政書士会連合会への登録は、18歳以上しかできないなどの条件があります。

専門的な学校・学科はあるの?

行政書士に特化した専門的な学校はありませんが、行政書士業務に関する法令(憲法、行政法、民法、商法、基礎法学)からの出題が46問、一般知識(政治・経済・社会、情報通信・個人情報保護、文章理解)からの出題が14問となっていることから、法律問題の比重が高い大学の法学部や法学が学べる学校への進学が有利になるでしょう。

参考書を利用した独学での受験も可能ですが、通信講座の受講やスクールへの通学などの選択肢もあります。独学だと、法律知識がある場合で計500~600時間、初めて法令に触れる場合で計800~1,000時間、スクールだと500時間が目安です。自分に合った方法での勉強が必要となります。

行政書士の年収・給与・収入

行政書士の平均的な年収は400万~600万とされていますが、働き方や経験年数により大きく変わります。

行政書士の勤務形態はさまざまで、企業や行政書士事務所などで雇用されて働く場合は年収が低く、逆に自分で開業する場合には年収が高くなる傾向です。また、取り扱う業務によっても報酬が異なります。企業からの依頼を受けて対応する方が年収が高く、なかでも薬局開設許可申請や産業廃棄物処理業許可申請などの、より専門的なスキルが必要な業務に対応できれば年収が上がります。

行政書士のみで仕事をしている人ももちろんいますが、仕事の幅を広げたり、年収を上げるために別の資格を取得している人も多くいます。

特に司法書士や宅地建物取引士、中小企業診断士との兼業は人気です。司法書士を兼業することで、不動産登記や商業登記、裁判事務を扱えるようになることから、作成できる書類の幅を広げることができます。中小企業の経営コンサルタントである中小企業診断士と兼業すれば、中小企業のサポートの幅が広がることになり、許認可申請などの単発の依頼ではなくコンサル業務の依頼など継続して契約できる可能性も高まるでしょう。

行政書士は全国に約50,000人、法人会員は約1,000事業者となり、年々増えています。また、2021年には行政書士法が改正され、一人で行政書士法人を設立することが可能になりました。今後さらに開業する行政書士も増え、競争が激しくなる可能性も出てくるでしょう。

行政書士の社会のニーズ・将来性・まとめ

今後、長寿高齢化がますます進んでいくことが予想されますので、遺言書の作成や福祉サービスを利用するための書類の作成などの依頼などは引き続きニーズがあるでしょう。昨今では助成金や補助金など新たな制度も登場していることから、今後も行政書士を頼って相談に来るケースも期待できます。

また、2018年に民泊に関する法律が制定されたように、これから新たに事業が出てくればそれに伴う手続きの依頼は新しい仕事として発生します。既存の仕事だけでなく、新しいことにもチャレンジしていくことが仕事の幅を広げるポイントです。

一方で、行政手続きの簡素化・効率化が推進されていますので、個人や法人が行政書士に頼まなくても自ら申請できるようになったり、AIにより対応できるようになったりするなど、行政書士が取り扱う業務が減るリスクも考えられます。「どのような業務を取り扱うのか」が、将来的な年収に影響することになるでしょう。

これらの状況を踏まえれば、仕事の幅を広げておくことが重要です。行政書士としてどの分野の仕事に力を入れていくかを検討することはもちろんですが、行政書士だけでなく行政書士と密接に関連するような資格を取得することが、有効であるといえるでしょう。

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