宅地建物取引士の仕事
「宅地建物取引士」は不動産取引の専門家で、国家資格の取得が必要です。「宅建士」と略称が使われることもあります。
不動産の売買や賃貸物件のあっせんをするときに、宅地建物取引士だけが対応できる業務があり、宅地建物取引業を営む場合は従業員5名につき1名以上の設置が義務付けられています。
宅地建物取引士が独占的に対応できる仕事は以下の3点です。
①重要事項の説明
不動産を購入したり借りたりする人に対して、取引内容を説明する仕事です。所有者の情報や不動産の広さ、水道・電気・ガスの状況、契約を解除する場合の方法、水害ハザードマップの有無など、あとでトラブルにならないようにきちんと説明しなければいけません。
不動産取引は高額な取引になり、十分理解しないままに契約を締結してしまうと、購入する人や借りる人に大きな損害が発生することになりかねません。そのため、ただ単に説明書を読み上げて説明するのではなく、わかりやすくきちんと理解をしてもらえるような説明を行なう必要があります。
②重要事項説明書(35条書面)への記名
①のとおりきちんと口頭で説明する必要はありますが、内容が広範囲にわたるため、口頭の説明のみで理解してもらうのは簡単ではありません。そのため、口頭で説明する内容を書面に記載するのが重要事項説明書です。
宅地建物取引士は、重要事項説明書に記載されている内容に誤りがないかをきちんと確認し、さらに記載の内容に責任を持つため、宅地建物取引士として記名をします。
③契約内容を記載した書面(37条書面)への記名
重要事項の説明が終わり、不動産の取引が成立すると、契約書を作成します。この契約書にも宅地建物取引士が記名を行ないます。
宅地建物取引士になるには?
宅地建物取引士として仕事をするためには、2つのステップを経る必要があります。
まずは、宅地建物取引士資格試験(宅建試験)に合格することです。
宅地建物取引士資格試験は、学歴や年齢、国籍などに関係なく誰でも受験が可能です。試験は毎年1回のみで、10月の第3日曜日(新型コロナウイルス感染症の影響により、一部の都道府県においては10月と12月に分けて実施)の午後1時~3時に実施されています。47都道府県すべてに試験会場が用意されていて、受験手数料は8,200円です。
宅地建物取引士資格試験の合格率は約15~17%です。毎年20万人前後が受験し、3万人~4万人が合格しています。
試験に合格したら、次は都道府県知事の資格登録を受け、宅地建物取引士証の交付を受けなければいけません。登録するには、2年以上の実務経験(試験前後を問わない)か、登録実務講習実施機関が行なう登録実務講習の修了が必要です。
宅地建物取引士証の有効期限は5年間で、5年ごとに法定講習と宅地建物取引士証の更新を行なう必要があります。
必要な資格
宅地建物取引士資格試験を受ける方法であれば、学歴や年齢、国籍などは問われませんので、誰でも受験が可能です。
ただし、宅地建物取引士証の交付を受けるためには、18歳以上の成年であることなどが条件です。
専門的な学校・学科はあるの?
宅地建物取引士に特化した専門的な学校はありません。しかし、宅地建物取引士の試験は、法律問題の比重が高くなっています。
・民法などに関する法令(民法、借地借家法、不動産登記法、不動産区分所有法)からの出題が14問
・宅地建物取引士の実務で使う宅建業法からの出題が20問
・都市計画法や建築基準法など法令上の制限からの出題が8問
・その他税金制度など不動産にまつわるさまざまな知識が8問
そのため、大学の法学部や法学が学べる学校への進学が有利になるでしょう。
宅地建物取引士試験合格のための勉強時間は、不動産に関わる仕事に従事しているかどうか、法律の知識があるかどうかなどにより個人差はありますが、300~400時間が目安です。参考書を利用した独学での受験も可能ですが、通信講座の受講やスクールへの通学などの選択肢もありますので、自分に合った方法での勉強が必要となります。
宅地建物取引士の年収・給与・収入
宅地建物取引士の年収は、働く条件によって大きく異なります。宅地建物取引業を営む場合は、従業員5名につき1名以上の設置が義務付けられていることから、企業が従業員に資格取得をすすめる場合も多くあります。一般企業に就職する場合、基本的な給与はほかの社員と同様となるため、会社員の年収とさほど変わりありません。平均年収は約470万円~630万円程度といわれています。なお、資格を有している場合には資格手当が加算されることがあります。企業によって異なりますが、月1~3万円が相場です。
また、宅地建物取引士として開業する人もいます。平均年収は明らかではありませんが、開業する場合のおもな収入は、不動産取引時の仲介手数料です。仲介手数料は宅地建物取引業法によって上限が設定されており、売買取引の場合は売買価格の3~5%です。例えば2,000万円の不動産売買のケースだと、約70万円が上限です。賃貸取引の場合は、家賃の1ヵ月分が上限となります。
このように売買価格や家賃の影響を受けることから、地域による差も生まれます。例えば東京・大阪・愛知などの大都市であれば報酬は高くなりますが、青森・宮崎・沖縄などは低くなる傾向です。
宅地建物取引士のなかには、仕事の幅を広げたり、年収を上げるために別の資格を取得している人もいます。宅地建物取引士は不動産の三大資格の一つですが、その他の「管理業務主任者」「マンション管理士」を取得することで、より幅広い不動産取引を扱うことが可能です。また、これらは試験内容が重なるところもありますので、不動産知識も身に付きますし、比較的取得しやすいといえるでしょう。さらに、2021年より賃貸不動産経営管理士も国家資格となりました。これから複数ライセンスの取得に挑戦する場合は、この資格を選択するのもよいでしょう。
また、ファイナンシャルプランナーを取得するのもおすすめです。特に不動産売買は高額な取引になることから、きちんと資金計画を立てなければいけません。また、住宅ローンを利用することも多いため、ローンの組み方や返済の仕方など資産面からのアドバイスをすることができるようになります。
宅地建物取引士の社会のニーズ・将来性・まとめ
近年、AIやICTへの代替が検討されることも多くなってきましたが、宅地建物取引士の仕事への影響は低いと考えられます。宅地建物取引士の仕事のなかでも重要なのは、「重要事項の説明」です。機械的に説明するのであればAIでもできますが、相手の理解度を読み取り、きちんと理解をしてもらえるようにわかりやすく説明をするには、宅地建物取引士が役割を担うことが必要不可欠でしょう。
また、宅地建物取引業を営む場合は、従業員5名につき1名以上の設置が義務付けられていることからも、引き続き宅地建物取引士の将来性は明るいと考えられます。
しかし、宅地建物取引士資格の登録者数は110万人を超えていますので、資格を持っているだけでは強力なアピール材料とはなりません。専門性を高めたり、対応できる仕事の幅を広げたりするためにも、複数ライセンスを取得していることは有利に働くでしょう。
さらに、少子高齢化社会への対応として、リバースモーゲージという新たな不動産有効活用に関するシステムも生まれてきています。また、サービス付き高齢者向け住宅の供給も進んでいくでしょう。不動産の売買や賃貸にとどまらない、新たな事業が今後も出てくる可能性がありますので、既存の仕事だけでなく、新しいことにもチャレンジしていくことが、今後宅地建物取引士として活躍する鍵になるでしょう。
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