法衣・きもの 洗いと補修

山口昌邦/株式会社山口西光堂

新しい着物産業の働き方を作る

ーーまず今やってる仕事について教えてください。

山口 昌邦氏(以下、山口)うちの仕事は法衣のお手入れの仕事をしています。洗濯をして、染み抜きをして、傷んだところの修理。縫う仕事をしてお客さんにお納めするというのを基本でやっています。

お寺さんの法衣と一般の方の着物と両方触らせてもらっている感じです。

ーー お手入れという話なんですけれども、着物というものがわからない人にとっては、着物にお手入れというのはどれぐらい必要なのか。またどれぐらい困難なのかというのがわかっていない人は多分、日常に多々おられると思うんです。

着物ってお手入れって必要なんですか?っていうところからお話いただけますか。

山口 大体まず、着物は一般的にシルク、正絹でできているので水洗いが不可です。

まず家庭の選択では難しいです。

ドライクリーニングでクリーニングをしますけれども、どの程度必要かということに関していうと、変色、染めの色が変わってしまったり、正絹は変色することが多いので、それを避けるためには洗うということはすごく効果があります。

変色をしてしまった場合には地直直しといって、染み落としもそうですけども、変わってしまった変色を抜いたり、色が変色したものに対して色を足してきれいにしたりとかということが必要にはなってきます。

ーー 地直しという言葉がでたので、地直しって要は汚れていたりした持ち込まれたものを完全にわからない状態で修復して届けるということですよね。もうどこを直してもらったのかわからないぐらい全てがわからない状態でお返しするという。

山口 それが理想ですね。それはもう。

ーー さまざまなパターンというか、こういった汚れに関してはとかこういったものに関してはとか、それぞれすごい複雑な工程というかを選んで、その商品をお返しするということですよね。

山口 そうですね。あとは、さっきの汚れを落とすということもそうですけれども、大体特に私たちが洗うのは夏物冬物とあればシーズンごとに洗濯をしましょうと。

例えば私がスーツを時期終わりにクリーニングに出すのと同じ感覚で、特にさっき正絹で変色の話をしましたけれども、例えば汗がつきました、染みがつきました。

そしてしまいました。

次のシーズンに出してきたら変色してしまっているということも多々あるので、そういう意味でも洗うということにはまず意味があるわけですね。

ーー なので例えば、化学の薬品を使ったりとか、そういうさまざまな洗いとか染み抜きとかいう言葉では表現できないほどの知識が必要な仕事だということですね。

山口 そうですね。素材の知識もそうだし、専門性は高いと思います。

ーー なので、着物を着ている人たちがまた次これ着たいなと思っても汚れているといったことがないように下支えしているという職業だということですね。

やはり着物というものを憧れている人たちというのは相当おられると思いますが、着物関係で腕1本でやっていこうというのはなかなか減ってきてはいるものかなと感じています。

こういった洗いとか時直しとかはそういったものというものは減ってきているんですか?

山口 現実には着物を着る人の数というのは減っていると思います。

例えば、入学式にお母さんが着物で行く人というのが、今多分割合はかなり少なくなっていて、30年前と比べたってそうだろうし、だから需要が減っているけれども、私たちみたいに和装の関係で働いている人間の感覚からすると、需要よりもその職人。

例えば勤めの職人さんであったり、私共にいる人間でいうと、和裁士の人間であったり、そういう職人の確保の方がより難しいという実感があります。

だから仕事が減っている、需要が減っているというより供給が同じか、それ以上に減っているなというのが実感です。

ーー こういった着物に関わる仕事をしたいと思う人は、やはりここに新たに来られてこちらで働いておられるというのも結構おられると。

山口 そうですね。私どもの特徴としては、先ほど洗濯、染み抜きをしますという話をしましたけれども、着物というものもやはり高級品という性質である以上長い年月使うものです。

親から譲り受けたものであるものとかってなってくると、もちろん傷んできたり仕立て直しをしたりなどという縫うという仕事のウエイトもかなり高くて、仕事の半分以上は修理を要するものです。

そういった仕事はまさに和裁士が請け負っていますけれども、もともと和裁士、縫うという仕事は職人さんがおばあちゃんが家で着物を縫ってるように個人事業主で縫い物を生業としている人は昔はたくさんいました。

けれども、今そういう人が激減しているので、私のとこは恐らく業界では珍しいものだと思いますけれども、正社員で和裁士を雇用してそういった縫い仕事をやっています。

そういう募集をしていると、今は結構地方出身者で京都に住んでうちで縫いものをしてくれているという人間が複数いるので、やはり和裁の仕事をしたいというご希望で京都にいらっしゃる職人さんは多いのではないかなと思います。

ーー それこそあれですね。なかなか地方では成立しない職業というか、ものをやりたいから、京都に住む。そして京都でこういった仕事を働きたいといった人たちが全国から集まってきているという感じですかね。

山口 そうですね。やはり地場産業なので、着物が一つ出来上がるまで、ももちろん染める人もいればデザインをする人もいれば、もちろんもともと機をおるものがあって、縫う人間がいていろいろな手を通って着物が出来上がります。

そうなると京都はもともと伝統的に複数の職人さんが存在しているので、京都ならではの仕事とは言えると思いますね。

ーー 毎日着物と接して着物の文化を継承していく。

継承していくだけではなくて、昔は例えばこういうやり方だったけど、今はこういうやり方でできるようになるということで、着物を扱っていることは伝統とはいえ、その作業工程というのは日々新しくなってきている感じですかね。

山口 そうですね。もちろん、機械を使ったり、薬品を使ったり、昔ではできなかったことで今できることというのがたくさんあります。

ーー ということは、新しいことに触れて、新しいことを吸収しながら、伝統の仕事をやるという、それは一つの面白さでもありますよね。

山口 そうですね。新しいことを取り入れることとあと昔からある技術を継承していくこと。その2つが両方とも大事かなと思います。

ーー 山口さんは大学は何か着物関係でしたか?

山口 まったく関係ないです。

ーー 大学卒業してすぐに着物関係のお仕事に?

山口 いえ、東京でまったく関係ないサラリーマンをしてから、今の形の仕事についています。

ーー なるほど。4年間何をしていたかとお聞きしていいですか。

山口 4年間は建築関係のメーカーの営業をやっていました。今とは全く畑は違います。

ーー 大学出てすぐ継ぐとか手伝うという選択肢もあったと思うんですけれども、あえて4年間メーカーで働かれた理由というのはなんかあったんですか。

山口 元々、明確に継ぐ意志があったかと言われるとなかったです。サラリーマンをやっている時に、父が病気になって帰ってきてくれないかなというので、帰ってきたのが経緯です。

ーー やはり4年間別業種をやって良かったなと思いますか?

山口 思います。この和装の世界というのは、かなり狭い世界ですごく限られたジャンルの人間の中で仕事をするので、全然違う業種で社会人をやってた経験というのはかなり生きていると思います。例えば一つ僕がやってたのが営業マンだから営業もそうですし、組織の中にいたので組織のありようであったりとか学んだことはやはり大きかったですね。

ーー 京都に戻ってきて感じたことってありました?東京と比べて。

山口 京都の方が時間がゆっくり流れているなと感じます。東京に行った時は時代もありますけれども、サービス残業で夜まで働いてそれが当たり前だと思って生活をしてきました。しかし、今の私どもの仕事に関していうと定時に全員帰ります。

もうそれがずっと当たり前で、今もその通りだし、今はワークライフバランスがどうだとか残業しないようにとか、社会的になっていますけれど。

うちの会社は昔からそうなので、それが当たり前ということで、京都に帰ってきてからはそれが当たり前と思って過ごしていますし、その中でしっかり仕事ができているという状態で、うちのお店は回っているし、恐らくうちだけじゃなくて、京都の地場の会社となんというのはそういうところもたくさんあると思います。

その中で仕事をして成立しているという状態は、ある種理想的なのかなって思いますね。

ーー 山口西光堂さんはもう職人の世界のイメージから考えるとかなりホワイトですね。

着物職人の仕事は今はどうか分からないですが、明治大正の人たちの着物業界の働き方というのは、もう非常にブラックという時代もありました。

そういうのも話にもならずに、山口西光堂さんは定時上がりでちゃんとそういうワークライフバランスというのを作られているということですね。

山口 元々は何でしょう。職人なので丁稚とか修行をするとか、その中で苦労しながら覚えるというのは、恐らく当たり前だったとは思うんですけれども、今その思想で誰かが来てくれるのかと言われるとやはり難しいと思います。

例えば私どもの会社で申し上げますと和裁の学校を卒業しました。そして新卒で入ってきます。

普通に定時の中でじっくり覚えてもらって、1人前になってもらうというサイクルを作るよりほかなかったというのもありますし、それをしないとやはり新たな技術者を育てていくこと、継承していくことというのは難しいかなと思っています。

ーー もう僕らとかは、大学を卒業してもうそろそろ20年選手になるわけですけれども、ではもし今の大学生だったらこういう風にしたほうがよいのではなかろうかとか、自分が大学生だったらこうするなとかありますか。

山口 自分が今、大学生だったとしたらそうですね。何もしないかな(笑)

今の学生さんとそんなに接する機会がないですけども、我々が大学生の時よりきっと勉強しているんだなというのを肌感で感じています。

私の時は日々遊んでましたが、そういう将来の意識なんかは私の時なんかよりも高いなと思います。

恐らく就職、働くということに関しても、どういった仕事をどのようにというのを考えている方の方がきっと多いと思うので、そういう人たちに自分たちのこういう仕事があるんだよというのを知っていただけたらいいなと思いますね。

ーー 例えばもう東京に行っておられて、京都に戻ってこられたんですけれども、例えば京都で働く良さとか、京都で住む良さとか、京都っていったいどう感じられてますでしょうか。

山口 私の場合は出身から京都なので、ここはふるさとのよさと思っているのかもしれないですけれど、やはりちょうどいい都会。

物にも不自由もないし、仕事もそれなりにあるし、あと先ほど時間の話をしましたけれど、ゆったりしたペースで恐らく仕事ができているのかなと思います。

ちょっと業種によるとは思うので、他業種の場合は違うかもしれないですけれども。

ーー 伝統を守る仕事とはいえ、新しい取り組みもされているということですよね。

山口 そうですね。それがこの着物洗科といって、これは京都市内限定ですけれども、お宅まで伺って着物をお預かりして綺麗にして着物を納めるというサービスをこの今年から始めました。

ーー 昔だとここに持っていけば、着物を直してもらえるよという場所がありました。そして業者があった。でも、今はなかなか廃業されててない。

では、どうする。では売るのか売ってもよく俗に二束三文というそういうわけで、それをせっかくなので生かしていきましょうというところのターゲティングなのかなと感じております。

そうすると、着物の良さというのは、まだ着る人が増えてくれば、また文化庁も京都に来たわけですし、少しずつ何かそういったものが変わっていけばいいですよね。

山口 そうですね。着物文化に貢献できるといいですね。

ーー では3年後、5年後って自分がというのもあってもいいですし、会社でもいいんですけれども、こうなっていたいなとか、何かこうしたいなということはありますか?

山口 シンプルな話になりますが、3年後、5年後になりますと今私が専務で母が社長なんですが、母が67になっています。

やはり早く引退させてあげないといけないし、早く代を変わってあげないと。

それから私の次の代を育成することを、ここから5年かけてやっていくことですかね。

ーー ここで改めてでありますが、全国からでもいいです。

京都からでもいいんですけれども、着物にかかわりたい、着物の何かしらの仕事に就きたいという人もおられます。

定期的にではないかもしれないですけれども、西光堂さんは新しい人も入れているそうですね。

山口 はい。不定期ではありますけれども、採用活動も思っています。

というのも先ほど話したことに戻りますが、私ども和裁士の社員が6名ほどいます。それ以外の人間はやはり内職さん、家で縫い物をしている方もたくさんいるわけです。

やはり年配の方も多いですし、だんだん引退されていくわけです。なので、若い人、新しい人を社員で採用して、その受け皿になっていくということが私どもの仕事の継続には不可欠なので、これからも採用数は増えていきます。

職人の育成というのは私どもが仕事を続けていく上での根幹かなとは思っています。

ーー だから、伝統がすたれている、すたれいてると言われている文化の中で、そういう風に新規の人を雇っているというのは、社会貢献的にもその伝統とかを守る上でも有意義な会社の取り組みもされておられますね。

山口 そうですね。仕事のために必要でやっていることではありますけれども、それが産業の継承であったりとか、継続であったりというところに関係しているというのは単純に嬉しいなと思います。

やはりこういう京都の和装産業、もちろん京都に限らないかもしれないことかもしれませんが、なかなか広く仕事のアピールを外に向かってするというのができていないのが現状だと思います。

例えば、それの受け皿としての就職であったり、働き口が多くないのも事実ではありますけれども、その中でできる限り発信をして少しでもこの世界で働きたいと思う方がいれば覗いてもらえるような取り組みというのは大切だなと思いますし、継続していきたいと思います。

詳細情報

株式会社山口西光堂/山口昌邦(MASAKUNI YAMAGUCHI)

サイト・店舗URL:https://saikoudou.net/

サービスサイト

着物洗科 https://www.saikoudou.net/kimonosenka/

美白衣 https://kyoto-byakue.com/

TEL 0120-974-704

所在地 京都市西京区樫原盆山18-1 ダイヤモンドヒルズ1F

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